映画は郷愁だ。<『ニュー・シネマ・パラダイス』研究報告>

はじめに

 

どうも、お久しぶりです!

関西大学映画研究部で現映画チア部、絶賛就活中の大学生・大矢でございます。

 

映画館の活動再開に合わせ、過去の名作映画が続々と公開している今日、この頃。

 

その例に漏れず、往年の名作ニュー・シネマ・パラダイスも、各地の映画館でリバイバル上映が行われています。

 

というわけで、今回は、映画研究部時代に不定期で執筆していた「午前十時の映画祭」の鑑賞記録シリーズ「映画は〇〇だ。」の続きとして、本作の見どころをご紹介。

 

本記事を読んで興味を持った方や、改めて観たくなった方は、終盤に記載してある映画館に訪れてみてください。

 

それでは、どうぞ!!

 

今回の作品

ニュー・シネマ・パラダイス

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ

制作国:イタリア、フランス

上映時間:123分(劇場公開版)、175分(完全オリジナル版)

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出典:https://www.imdb.com/title/tt0095765/mediaviewer/rm3624563712

 

あらすじ

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出典:https://www.imdb.com/title/tt0095765/mediaviewer/rm1569887233

シチリアの田舎町

映画好きの少年・トトは町で唯一の映写技師・アルフレードと親交を深め、映画館"シネマパラダイス"で忘れられない日々を送っていた。

いつしか成長し、映画館で働くことになったトト。

彼は人生を変える大恋愛を経験するが、そこには大きな壁が立ちはだかっていて……。

 

見どころ

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出典:https://www.imdb.com/title/tt0095765/mediaviewer/rm1848869633

本作の見どころは、なんといっても、個性豊かな登場人物たち鮮やかで美しい町の映像美

 

映画好き少年・トトとアルフレード世代を越えた友情関係はもちろん、わずかな登場シーンながらも強い印象を残す町の人々の描写が素晴らしい。

 

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出典:https://www.imdb.com/title/tt0095765/mediaviewer/rm2419294977

 

大声を挙げながら劇場に入ってくる男性、上映中にいつも眠っているおじさん、目が合ったことで恋愛へと発展する男女……。

 

「映画館」という特殊な空間の中でドラマが巻き起こる展開は、他の作品にはない本作ならではの魅力といえるのではないでしょうか。

 

 また、そんな本作を彩るのが、舞台となるシチリア島の美しい風景

 

主人公が思い悩んだ時に訪れる真っ青な海 

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出典:https://www.imdb.com/title/tt0095765/mediaviewer/rm743854592

 

幼少期の主人公が通う学校

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出典:https://www.imdb.com/title/tt0095765/mediaviewer/rm2761069569

 

花火が打ちあがる夜道

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出典:https://www.imdb.com/title/tt0095765/mediaviewer/rm2452849409

 

これら、作品を構成する美しい場面の数々が芸術的で、映画が終わった後も深い余韻が頭の中に残り続けます……。

 

本作のテーマの1つに異郷のさびしさから故郷に寄せる思い、つまり「郷愁」が挙げられます。

 

実際の故郷ではなくとも、本作を観た後、誰もがそんな感情に浸ることが出来るのは、これら、愛らしい登場人物や風景が持つ魅力ゆえといえるのではないでしょうか。

 

解説

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出典:https://www.imdb.com/title/tt0095765/mediaviewer/rm2603844353

本作には様々な要素が描かれているため、一つに絞るのは難しいのですが、今回、着目したいのは、映画館における身分格差の描写

 

昨今では、『ジョーカー』(2019)や『パラサイト 半地下の家族』(2019)など、立て続けに「身分格差」がテーマとなった作品が公開され、現実の社会でも感染症の蔓延を発端に、それらの問題が、より浮彫りになっている現状があります。

 

本作は一見、そのような題材とは程遠いように見えますが、実は裏テーマとして描かれているのが、まさしく映画館における身分格差の描写

 

大衆層が集まる1階、富裕層が集まる2階。

 

本作に登場する映画館"シネマ・パラダイス"は2階建てになっており、それぞれの身分に合わせて、上下に観客が分かれています。

 

お金持ちの男性が下の階に唾を吐き、下の階の観客が泥を投げつける。

民衆が立ち上がる映画が上映されると、下の階で歓声が沸き起こり、上の階では苦い顔をしている。

 

このように、二つのフロアで起きる出来事が随所随所で挟まれ、3時間弱ある本作の完全版では、これらの描写が主人公の恋愛にも影響してくることになるのです。

 

普遍的な名作との呼び声が高い本作ですが、その理由には、現在にも繋がるこれらのシーンの数々が挙げられるのです。

 

また、豪華な製作陣にも注目してほしいところ。

 

アルフレードを演じたフィリップ・ノワレさんは、『地下鉄のザジ』(1960)に出演していたほか、近年、劇場公開もされたアニエス・ヴァルダ監督幻のデビュー作『ラ・ポワント・クールト』(1956)の主演も務めていた名優。

 

主人公・トトの熟年期を演じたジャック・ベランさんは、ジャック・ドゥミ監督のロシュフォールの恋人たち』(1966)『ロバと女王』(1969)に出演しているなど、フランス映画好きには、たまらないキャスティングとなっています。

 

そして、音楽を担当したのは、エンニオ・モリコーネさん。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト(旧題:ウエスタン)』(1968)や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)を含めたセルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム三部作」クエンティン・タランティーノ監督のヘイトフル・エイト』(2015)でも名曲を手掛けており、本作の楽曲では、観客を自然と感傷に浸らせてくれます

 

映画館という存在

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出典:https://www.imdb.com/title/tt0095765/mediaviewer/rm2385740545

本作では、映画館という存在の偉大さも描かれていました。

身分に関わらず、様々な人々が集まり、同じ時間・同じ作品を共有するという特殊な場である「映画館」

それは、大切な思い出であり、忘れたくない「記憶」の断片でもあります。

 

しかし、時が経つにつれて、風化され、失われてしまうのが「場所」というもの。

本作では、その切なさや悲しさも描かれていました。

 

僕自身も、大切な映画館を失った経験があります。

 

兄と母を連れてアニメの3本立てを見たり、特撮ヒーローと握手をするために長蛇の列を並んだ三宮東映プラザ 

夏のアニメ映画を見るときは、いつもここと決めていたOS三劇

家族4人で『ターミネーター3』を見に行って、終わった後、静かな沈黙が訪れたOS阪急会館
そして、ジャンプアニメと東映のヒーロー映画が公開されるたびに母と通っていた三宮シネ・フェニックス

 

そのどれもが、いまやなくなってしまい、当時の記憶は少しずつ薄れつつあります。

 

場所がなくなることは、記憶がなくなることのようにも感じます。

しかし、失われた映画館を元に戻すことは出来ません。

たとえ、振り返ることがあっても、今できることは、今ある場所を大切にしていくことでしょう。

 

様々な人々が集まり、同じ時間・同じ作品を共有するという特殊な場である「映画館」

 そんな場所の大切さを、今だからこそ、改めて考えていきたいです。

 

今回の小道具

こちらは、かつて映像系の大学のオープンキャンパスに行った際、もらった本物のフィルムケース。中には、それ以降、鑑賞した映画の半券がすべて入っています。

 

 

おわりに

長々と長文を読んでいただき、ありがとうございました。

今回、紹介した傑作ニュー・シネマ・パラダイスは、現在、以下の劇場にて、絶賛上映中。

貴重なリバイバル上映、ぜひ、今だからこそ、映画館で体感していただきたい一作です。

 

元町映画館さん

(6/12上映終了 貴重な35mmフィルム上映)

www.motoei.com

 

OSシネマズ ミント神戸さん

(上映終了日未定)

www.oscinemas.net

 

109シネマズHAT神戸さん

(上映終了日未定)

109cinemas.net

 

アースシネマズ姫路さん

(6/25上映終了)

earthcinemas.jp

 

CINEMACTION 豊劇 豊岡劇場さん

(6/11上映終了)

toyogeki.jp